代表からのご挨拶

XNef

株式会社XNefの代表の川人です。

精神医学においては、30年間大きな進歩が無いともいわれ、精神疾患がDALY(*1)のトップになっております。この原因については、まず、診断が症状だけに基づいて客観性が低く、患者の状態を定量的に測れないことがあります。さらに、治療法は、薬物に偏っているものの、薬物治療が一生にわたり有効な患者はむしろ少数であり、また、30年間メガブロックバスターが出ていないという状況です。

この原因は、ある薬が有効な患者を客観的に特定できないために、創薬の「治験」(*2)のプロセスでは、対象となる疾患に対して、異なるタイプの患者が混ざってリクルートされることが挙げられます。さらに、薬効を定量化できないので、異質な患者と診断の雑音にまぎれて多くの治験が失敗するということにもなります。

このような状況もあり、いわゆるメガファーマには、精神疾患薬の創薬から撤退する者が多く現れ、世界の精神疾患薬の開発費も減少しています。また神経科学的には、薬がどのような機構で病態を改善するのかの合意も、必ずしもあるとはいえません。つまり、現状の困難を解決するためには、疾患の生物学的な定義、診断のための客観的で生物学的な非侵襲計測、薬剤開発の脳科学的支援、薬物以外の神経科学にもとづいた革新的な治療技術などの開発と応用が必須であるといえます。私たちは、ATR脳情報通信総合研究所で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構などの支援を受けて、複数の医療機関と共同で、脳神経科学と人工知能技術を組み合わせて、このような課題を解決するための研究を20年にわたり継続して、いよいよ実用化の段階に入ってきたと感じております。株式会社XNefは、このような課題に立ち向かうために、人工知能技術と脳科学を組み合わせ、国プロなどで得られた成果を医療に応用することを目的として、設立されました。

具体的には、私たちは、まず第1に、千人規模の患者の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)計測にもとづく安静時脳機能結合データを人工知能技術で処理し、疾患診断の補助となる生物学的指標:疾患脳回路マーカーを提供することを目的としております。第2に、やはり、fMRI計測にもとづく安静時脳機能結合を人工知能技術で処理し、単一の疾患内の患者サブタイプ(*3)を定義し、特定の薬物が有効な患者群を客観的に明らかにして、各患者に最適な治療法を推奨できるシステムを実用化するとともに、適切な患者サブタイプをリクルートして臨床試験を成功に導く臨床開発支援技術を実用化することを目的としております。第3に、デコーディッドニューロフィードバックや機能結合ニューロフィードバックなどによる革新的治療法を開発することを目的としております。

そして、社会への貢献としては、複数の医療機関のfMRI装置とXNef社のサーバをつないだ、診断補助ネットワークシステムを構築して診断補助サービスを提供し、そのさらなる応用として、複数の製薬会社に対して、患者層別化と薬効の客観的評価システムを組み合わせた臨床開発支援サービスを提供します。さらに、最終的には、ニューロフィードバックを利用した治療については、臨床試験を経て、各医療機関に、このような治療法を実現するシステムを設置します。

株式会社XNefは、脳科学とAIで心の不安に打ち克つ、そんな患者さんに寄り添う医療技術の実現を目指しています。

  • (*1)「DALY(disability-adjusted life year)」とは、「障害調整生命年」とも言われ、病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示すものであり、死亡率と疾病率とを単一の共通指標に統合したものです。
  • (*2)「治験」とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる臨床試験のことです。医薬品の場合は、多くの場合、治験は第I相から第III相までの3段階で行われます。第I相試験は、自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行い、第III相試験は、上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われます。
  • (*3) 一般に、精神疾患は、1つの病名で呼ばれている場合でも、単一の病気ではなく、複数の病気の集まりではないかとも考えられています。このような1つの病名に対する個々の病気のグループのことをサブタイプ(「下位分類」)と呼びます。